不動産の有効活用を考える、お客様の話をきちんと聞いてないでしょう? その1

第1話 お客様は相談の本質を最初は語ってくれない

ある日、社内のインテリア販売部門の社員から相談の連絡がありました。内容は、インテリアコーディネイトをお願いしている会社の山田社長(仮称)が、所有している不動産の件で相談したので人を紹介して欲しいということでした。

山田社長にお会いして話をお伺いすると渋谷区の高級住宅地に500坪程度の不動産を保有しているとのこと。不動産の現状は、戸建ての高級賃貸住宅として貸しているけど、収益性が悪いのでなんらかの収益対策を取りたいということが相談内容でした。

そこで、現地調査をして考えをまとめることにしました。調査の結果は、敷地は山手通りから一本入った環境のいい場所で、山手通りから25mまでは商業地域で容積率は400%なので高層建築物の建築は可能でした。山手通りから25m以遠は第一種低層住宅地域で、原則的には2階建てまでしか建てることができないという立地でした。

敷地は山手通りに接していないため、容積率はそれになりにあっても高層の建築物を建てることできませんでした。そこで、既存の高級賃貸住宅がある意味最適な活用方法となっていました。活用方法には実質不可能であることを社長にはわかりやすく説明することが必要となりました。

今回の話を客観的に分析すると、現状3棟の賃貸住宅がありました。活用するとなるとテナントさんの「退去リスク」を負うことになります。個人にとって退去交渉はかなり面倒なのでやりたくないはずです。退去リスクを負ってまで活用したいということは本当の目的は別にあると考えるのが自然ではないでしょうか?

山田社長は名門大学を小学校から出ているような方なので、お会いしてお話をした時の印象から、活用には制限があり、活用するためにはテナントさんの退去リスクを負うことになるようなことを知らないとは考え難いとの印象を持っていました。そこで社長が相談したいことは別にあると判断しました。そこで、社長から本音を引き出すことで抱えている問題の解決策を考えるために大切なことだと考えました。

山田社長の本音を聞き出すためには、信頼を得ることが必要でした。そのため、社長の懐に飛び込み、「収益性の改善だけが目的なのか?」という本当の目的を引き出すような話の進め方をいたしました。一般論として、お客様は、本当の目的を話さず、直面している問題の解決策を人には相談するものです。なんで、お客様の言うことだけをベースに売却すると結果的にお客様の抱えている問題の解決にならなかったという例は多く見ていたのでこのような判断ができました。

山田社長の信頼を得るために考えたことは不動産の権利関係から創造される問題点の指摘をすることにいたしました。土地と建物の謄本から所有者を確認すると、社長の個人名と会社名の二つの登記が複雑に交錯されているのがわかりました。

所有権の名義の移動関係から判断すると、山田社長の父親からの相続の対策のために不動産の名義を複雑にしていることは想像できました。そして、抵当権の設定からは父親の相続税の納付を銀行借入で行っていることも想像できました。

山田社長との最初の打ち合わせの時に、経歴を聞いていたので社会人生活のほとんどをサンフランシスコとで過ごしていることを知っていました。法人名義と相続人がアメリカ在住者とすると当時の税制だと、日本の資産をアメリカ在住者に贈与すると非課税になる状態でした。

そこで、想像したのが

①    非相続人の不動産を複雑に分筆し資産価値を下げる。

②    一部の不動産を現物出資で法人名義にする。

③    法人の株式をアメリカ在住の相続に贈与する。

④    相続時には銀行借入で納税する。

このような、節税を行ったのでは想像しました。

山田社長との2回目の打ち合わせの時には、敷地調査の話はほどほどに登記関係から想像できる節税の話をしました。その上で、社長が解決したい問題は「納税資金の借入を返済」という結論に至った話をしました。

すると山田社長は「よくそこまで気がついたな、相談したい内容はそのことだ」といてくださりました。その上で、「三井不動産にも相談していたけど、そちらは断ることにするのでこれからよろしくお願いします」と言っていただきました。